こんにちは。はーねうすです。
今回は、「入り江のざわめき/スペイン・ピアノ名曲集」を紹介します。
アルベニス、グラナドスやファリャといった、スペインを代表する作曲家のピアノ作品を収めたアルバムになります。
聴き所は何と言っても、アリシア・ラ・ローチャ氏のピアノ演奏です。繊細で情熱的な演奏の数々に聴き惚れます。
★打ち込みクラシック
DAW(Digital Audio Workstation)で入力したクラシック音楽のDTM(DeskTop Music)作品を紹介するコーナーを巻末に設けています。
今回紹介するアルバムの中から2曲をピックアップしていますので、是非お楽しみください。
変則回ですね。スペインの作曲家にスポットを当てたアルバムのようです。
スペイン音楽をカテゴライズする際には欠くことのできない作曲家の作品集だな。
目次
【着想】ピアノで広がるスペイン音楽。
「入り江のざわめき/スペイン・ピアノ名曲集」のコンテンツです。
概ね19世紀~20世紀中頃に活躍したスペインを代表する作曲家のピアノ作品が収められています。多くは組曲や舞曲集と言った作品群からの抜粋になります。
同時代にあっては前衛音楽が特徴付けられますが、スペインでは独自の発展を遂げていたことをこのアルバムから知ることができますね。
No. | 作曲家 | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | I.アルベニス | 組曲「旅の思い出」 | 第6曲:入り江のざわめき (マラゲーニャ) | Op.71 |
2 | I.アルベニス | パバーナ・カプリーチョ | ― | Op.12 |
3 | I.アルベニス | 組曲「旅の思い出」 | 第5曲:プエルタ・デ・ディエラ (ボレロ) | Op.71 |
4 | I.アルベニス | 組曲「スペイン」 | 第3曲:マラゲーニャ | Op.165 |
5 | I.アルベニス | 組曲「スペイン」 | 第2曲:タンゴ | Op.165 |
6 | I.アルベニス | スペイン組曲 | 第3曲:セビーリャ | Op.47 |
7 | I.アルベニス | スペインの歌 | 第1曲:アストゥーリアス (前奏曲) | Op.232 |
8 | I.アルベニス | スペインの歌 | 第5曲:セギディーリャ | Op.232 |
9 | M.アルベニス | ソナタ ニ長調 | ― | ― |
10 | グラナドス | スペイン舞曲集 | 第2曲:オリエンタル | Op.37 |
11 | グラナドス | スペイン舞曲集 | 第3曲:アンダルーサ | Op.37 |
12 | トゥリーナ | 5つのジプシー舞曲 | 第5番:サクロ・モンテ | Op.55 |
13 | トゥリーナ | 3つのアンダルシア舞曲 | 第3番:サパテアード | Op.8 |
14 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | I. パントマイム | ― |
15 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | II. 情景 | ― |
16 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | III. きつね火の踊り | ― |
17 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | IV. 亡霊 – 恐怖の踊り | ― |
18 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | V. 魔法の輪 (漁師の物語) | ― |
19 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | VI. 真夜中 (魔法) | ― |
20 | ファリャ | 組曲「恋は魔術師」 | VII. 火祭りの踊り | ― |
ちょっとした所感です。
<おすすめ度★★★>
「No.5」:I.アルベニス「組曲『スペイン』 タンゴ」
緩やかで温かみに満ちた、愛らしい楽曲です。
前打音で装飾された伴奏と、3連符やプラルトリラーで加飾した旋律の組み合わせが特徴的です。
また、特徴的な音階も不思議な響きを醸し出しています。
「No.7」:I.アルベニス「スペインの歌 アストゥーリアス (前奏曲)」
外向性の熱量と、内向性の感慨を兼ね備えた楽曲です。
同型反復で徐々に力強さを増す主要主題、静まり返る状況下で現われる感傷的な中間主題とのバランスが絶妙です。
「No.10」:グラナドス「スペイン舞曲集 オリエンタル」
儚げであり、寂しげでもある抒情性が特徴的な楽曲です。
タイトルが示すとおり、東洋風な曲調になっています。
東洋的な音階を含めた旋律と、ひたすらにロマンティックなサウンドで構成されています。
「No.20」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』 火祭りの踊り」
組曲のラストを飾る楽曲であり、ファリャを代表する楽曲でもあります。
力強い同型の反復、過剰な装飾に中毒性があり、クセになります。
結尾に入る段階で、更に熱量が増して勢いづく構成が素敵です。
<おすすめ度★★>
「No.1」:I.アルベニス「組曲『旅の思い出』 入り江のざわめき (マラゲーニャ)」
独特なリズムに乗せた、流麗な楽曲です。
オリエンタルとアラビックを混ぜたような音階が、エスニックなサウンドを構築しています。
中間部の甘美な主題も素敵です。
「No.2」:I.アルベニス「パバーナ・カプリーチョ」
感傷的な響きを持つ、穏やかな楽曲です。
装飾音が感傷的な旋律が、舞曲のリズムと組み合わさった優美な主題が特徴的です。
「No.4」:I.アルベニス「組曲『スペイン』 マラゲーニャ」
民族色がある音響と舞曲のリズムが特徴的な楽曲です。
中間部に登場する、ハープのアルペジオのようなパッセージが美麗です。
「No.11」:グラナドス「スペイン舞曲集 アンダルーサ」
意図的な濁りを演出したような伴奏と、力強い旋律が特徴的な楽曲です。
郷愁を惹起させる中間部の主題が印象的です。
「No.13」:トゥリーナ「3つのアンダルシア舞曲 サパテアード」
流れるように展開される、流麗な楽曲です。
勢いのあるパッセージで生み出される、東洋的な音階が魅惑的な音響を作り出しています。
「No.14」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』 パントマイム」
動と静のメリハリが効いた楽曲です。
中間部の静けさの中で展開される句は、内省的な思慮といったものを想起させます。
「No.19」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』 真夜中 (魔法)」
同型が反復される、サウンドエフェクトのような短い楽曲です。
睡眠導入剤的な効能を感じさせます。
<おすすめ度★>
「No.3」:I.アルベニス「組曲『旅の思い出』 プエルタ・デ・ディエラ (ボレロ)」
軽快で幾分陽気な、力強くもある楽曲です。
「No.6」:I.アルベニス「スペイン組曲 セビーリャ」
力強く展開し、中間部では感傷的な旋律が登場します。
「No.8」:I.アルベニス「スペインの歌 セギディーリャ」
戯けたような軽快なリズムで構成された、陽気な楽曲です。
「No.9」:M.アルベニス「ソナタ ニ長調」
明るい主要主題と、幾分内省的な副次主題が特徴的な、テンポの速い楽曲です。
「No.12」:トゥリーナ「5つのジプシー舞曲 サクロ・モンテ」
特徴的なリズムに乗せた主題と、力強く訴えかけるような中間部が特徴的な楽曲です。結尾の威勢も印象的です。
「No.15」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』 情景」
印象主義風の音響で展開されます。
「No.16」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』 きつね火の踊り」
幾分陽気で、戯けた感を持たせた伴奏が特徴的な楽曲です。
「No.17」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』 亡霊 – 恐怖の踊り」
グリッサンドの装飾と、無窮動に展開される主題が特徴的です。
「No.18」:ファリャ「組曲『恋は魔術師』魔法の輪 (漁師の物語)」
静寂な環境の中にあるような音響が、安穏といった感を惹起させる楽曲です。
スペイン音楽の特徴は、イベリア半島の歴史に根付いています。とりわけイスラム文化との接触は影響が強いです。
オリエンタルっぽく、アラビックっぽく響く音楽は、スペイン特有のエスニックな発展を遂げたといえるでしょう。
また、ドイツやフランスと言った古典やロマン主義、印象主義の特徴を取り込むことで、独特な音楽世界を気づいたのだと思えます。
舞曲が多いですね。タンゴなど聞き知ったものもありますが、セギディーリャも舞曲なのでしょうか。
スペインの南部に位置する、アンダルシア地方で発展した舞曲だな。軽快なテンポと快活なリズムが特徴だな。
【観想】情感で満たされた演奏。
魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。
今回紹介したアルバムの魅力と醍醐味は、やはりアリシア・デ・ラローチャ氏のピアノ演奏です。
スペイン音楽だけで構成されたアルバムでありながら、どれもが個性的な響きを持って演奏されています。
情熱的でありながら抑制が効いた繊細な演奏が特に素晴らしいです。
また、楽曲に対する解釈やアプローチに基づいた演奏が際立っています。
例えば、「No.5」のI.アルベニスの「タンゴ」。
速度指定は「Andantino」ですが、ラローチャ氏はそれよりもさらに遅めに演奏しています。
加えて、音量の絶妙な調整です。主題が繰り返し登場する箇所では、微量に変更しています。また、最大音になる箇所も、熱量を上げすぎず他箇所の差分程度の音量で奏でています。
リズムを特徴付ける伴奏は、補助的ではなく副旋律のように扱われています。
全体的にとても抑制が効いていて、内省的な楽曲のような印象を持ちます。
タンゴという舞曲に対するイメージが、がらりと変わるような素敵な演奏です。
音楽家の略歴です。
イサーク・アルベニス 【西】1860-1909 近代スペインの最大の作曲家、ピアニスト。ギターの手法によるピアノ曲は印象主義の先駆をなす。 (「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)
一概にスペイン音楽といっても、多様といった感がありますね。
演奏家の技術に裏打ちされた解釈やアプローチも、多様性を際立たせている点として挙げられるな。
【追想】装飾の魅力。
前打音とプラルトリラーが多いです。
「全音ピアノピース アルベニス タンゴ」(全音楽譜出版社)です。
前打音やプラルトリラーといった装飾音がとても目立つ譜面です。
特に伴奏部に配された前打音は、楽曲のリズムに独特の響きを与えています。タンゴという舞曲の特徴なのかもしれません。
アルベニスは、ギターの手法(演奏や曲調)をピアノ曲に取り込んだと言われています。
従来、タンゴやフラメンコといったスペインの舞踏は、ギターの伴奏が主流です。そのギター特有の演奏方法や装飾から生まれる響きをピアノで再現した結果が、装飾音として表出したのだと考えられそうです。
確かに装飾音が多いですね。五線譜に小さな音符が鏤められています。
他にもプラルトリラーが目立つよな。そのため、どこかバロック音楽の要素も感じられる音響になっているぞ。
【雑想】下手の横好き。(第96弾)
クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。
「Studio One」シリーズで打ち込んだクラシック音楽をお披露目するコーナーです。
今回は、<おすすめ度★★★>として紹介したI.アルベニスの「タンゴ」とファリャの「火祭りの踊り」です。
他作品を含め、下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。
・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)
クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。
長く続く趣味を持ちたいです。
今回は、変則回でした。
スペイン音楽に特化した、エスニック色の強いアルバムでしたね。
そして、アリシア・デ・ラローチャ氏の演奏に聴き惚れました。
ラローチャ氏自身スペインのバルセロナ出身ということもあり、スペイン音楽に対する情熱は計り知れない物があります。
また、バロックや古典の演奏技術で裏打ちされた奏法と、曲想上のアプローチが加わって、とても豊かな音楽世界を作り上げています。
次回から、スクリャービン編に突入します。
では、また。
情感豊かな演奏に魅了されるアルバムでしたね。
ファリャの「火祭りの踊り」の様に、他演奏家が取り上げている作品を聴き比べるのも一興だぞ。演奏家それぞれの解釈やアプローチが個性となって、多様な音楽を生み出しているのを実感できるぞ。