こんにちは。はーねうすです。
今回は、「スクリャービン エチュード (全集)」を紹介します。
全作品中9割近くがピアノ曲というスクリャービンにとって、ピアノのエチュード(練習曲)は作曲家の創作には欠くことのできないジャンルと言えるでしょう。
また、作曲家の全期にわたって創作されていますので、作曲上の変遷を知る上でも貴重なアルバムとなっています。
ピアノ演奏は、アレクサンダー・パレイ氏です。
アルバムの原題は「SCRIABIN Études (Complete)」です。
★打ち込みクラシック
DAW(Digital Audio Workstation)で入力したクラシック音楽のDTM(DeskTop Music)作品を紹介するコーナーを巻末に設けています。
今回紹介するアルバムの中から1曲をピックアップしていますので、是非お楽しみください。
スクリャービンのエチュードですね。
ピアノ小品集などに組まれていた練習曲も収めた、完全な「全集」になっているぞ。
目次
演奏会用練習曲の魅力。
「スクリャービン エチュード (全集)」のコンテンツです。
メカニカルやテクニカルな練習曲に終始することなく、演奏会で演奏する上での効果を十全に発揮する情趣や情緒を求められる楽曲、演奏会用のエチュードになっています。
ショパンやリストの練習曲に通じる作品群ですね。
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | Étude | No.1 (作品番号2の小品集より/嬰ハ短調) | Op.2 |
2 | 12 Études | No.1, Allegro (嬰ハ長調) | Op.8 |
3 | 12 Études | No.2, A capriccio, con forza (嬰ヘ短調) | Op.8 |
4 | 12 Études | No.3, Tempestoso (ロ短調) | Op.8 |
5 | 12 Études | No.4, Piacevole (ロ長調) | Op.8 |
6 | 12 Études | No.5, Brioso (ホ長調) | Op.8 |
7 | 12 Études | No.6, Con grazia (イ長調) | Op.8 |
8 | 12 Études | No.7, Presto tenebroso, agitato (変ロ短調) | Op.8 |
9 | 12 Études | No.8, Lento (Tempo rubato) (変イ長調) | Op.8 |
10 | 12 Études | No.9, Alla ballata (嬰ト短調) | Op.8 |
11 | 12 Études | No.10, Allegro (変ニ長調) | Op.8 |
12 | 12 Études | No.11, Andante cantabile (変ロ短調) | Op.8 |
13 | 12 Études | No.12, Patetico (嬰ニ短調) | Op.8 |
14 | 8 Études | No.1, Presto (変ニ長調) | Op.42 |
15 | 8 Études | No.2 (♩=112/嬰ヘ短調) | Op.42 |
16 | 8 Études | No.3, Prestissimo (嬰ヘ長調) | Op.42 |
17 | 8 Études | No.4, Andante (嬰ヘ長調) | Op.42 |
18 | 8 Études | No.5, Affanato (嬰ハ短調) | Op.42 |
19 | 8 Études | No.6, Esaltato (変ニ長調) | Op.42 |
20 | 8 Études | No.7, Agitato (ヘ短調) | Op.42 |
21 | 8 Études | No.8, Allegro (変ホ長調) | Op.42 |
22 | Étude | No.1 (作品番号49の小品集より) | Op.49 |
23 | Étude | No.4 (作品番号56の小品集より) | Op.56 |
24 | 3 Études | No.1, Allegro fantastico | Op.65 |
25 | 3 Études | No.2, Allegretto | Op.65 |
26 | 3 Études | No.3, Molto | Op.65 |
ちょっとした所感です。
<おすすめ度★★★>
「No.13」:「12 Études No.12, Patetico (嬰ニ短調)」
スクリャービンのエチュードを代表するといっても過言ではない名曲です。
オクターブの重音で提示される、熱情的な主題が印象的です。
また、伴奏の扱いも特徴的です。提示部では幅の広い分散和音で構成され、あたかも荒波のうねりのような豪快さがあります。再現部では和音の連打で構成され、激情が溢れ出た感で満たされています。そのため、大変ドラマティックな楽曲になっています。
「No.18」:「8 Études No.5, Affanato (嬰ハ短調)」
激性の中に、郷愁と感傷が織り込まれた感動的な楽曲です。
抒情的な旋律と、激しく揺れ動く伴奏で構成された内容で、ドラマティックな展開が素敵です。
「No.24」:「3 Études No.1, Allegro fantastico」
調性記号を配した練習曲で、後期に到達した独自の和音で構成された楽曲です。
長九度という不協和音程をメインに組んだ和音の連打で、独特の音響世界を構築しています。
スクリャービンのオリジナリティの塊のような楽曲でもあります。
「No.6」:「12 Études No.5, Brioso (ホ長調)」
明るく朗らかな楽曲です。重苦しさが特徴的な楽曲が多い中、間隙に差し込まれた安堵のような印象を受けます。ほっこりします。
緩やかに展開される優美な主要部と、低音域で重く響く和音が特徴の中間部で構成されています。
<おすすめ度★★>
「No.4」:「12 Études No.3, Tempestoso (ロ短調)」
熱情的で熱量の高い主要主題と、優秀で甘美な旋律を歌い上げる副次主題で構成された楽曲です。
「No.8」:「12 Études No.7, Presto tenebroso, agitato (変ロ短調)」
切れ味のあるリズムと素早いテンポが特徴の楽曲です。
中間部では静まり返ったかのような落ち着いた雰囲気に変化します。
「No.9」:「12 Études No.8, Lento (Tempo rubato) (変イ長調)」
緩やかで哀愁のある旋律と、穏やかな伴奏が複雑に絡み合う、大変美しい楽曲です。
「No.10」:「12 Études No.9, Alla ballata (嬰ト短調)」
重音で激しく劇的に展開される主要部と、優しく奏でる和音のコラール風で展開される中間部との対比が特徴の楽曲です。12の練習曲中、最も規模が大きい構成も特徴です。
「No.16」:「8 Études No.3, Prestissimo (嬰ヘ長調)」
トリルが主体の楽曲で、機能的な和声進行を外した後期作品を予見させられる作品です。
「No.25」:「3 Études No.2, Allegretto」
長七度で組んだ独特の不協和音が旋律を奏でる、不思議な美しさを伴った楽曲です。
「No.22」:「Étude No.1 (作品番号49の小品集より)」
軽快に弾むリズムと、調性感を逸した和声が特徴の楽曲です。
<おすすめ度★>
「No.2」:「12 Études No.1, Allegro (嬰ハ長調)」
軽やかに弾んだ、3連符のリズムが軽妙な楽曲です。
「No.14」:「8 Études No.1, Presto (変ニ長調)」
スピード感のあるテンポと、複雑なリズムが絡み合った楽曲で、旋律が分散和音の中に忍び込まれているのが特徴です。
「No.15」:「8 Études No.2 (♩=112/嬰ヘ短調)」
哀愁感が漂う楽曲で、拍子を掴みにくくさせてるリズムパターンが特徴です。
「No.19」:「8 Études No.6, Esaltato (変ニ長調)」
複雑なリズムで展開する伴奏と、相反する優しげな旋律の組み合わせが特徴の楽曲です。
「No.21」:「8 Études No.8, Allegro (変ホ長調)」
弾んだ感のあるリズムとが特徴の、軽妙洒脱な楽曲です。中間部ではコラール風の曲想が展開されます。
「No.23」:「Étude No.4 (作品番号56の小品集より)」
素早く展開される、調性を度外視した楽曲です。
「No.26」:「3 Études No.3, Molto」
五度で組んだ和音が力強いエネルギッシュな楽曲です。五度ということもあり調性感が保たれています。また、どことなく印象主義音楽のような面を持ち合わせています。
作品番号 Op.8や、作品番号 Op.42に収められた作品群は、ショパンやリストの影響を受けた、ロマン主義風の作品が中心になっています。加えて、演奏会向きの抜群の技巧性も兼ね備えています。
作品番号 Op.49以降になると、もう完全にスクリャービンの独自な世界に没入しています。拡張された機能和声が更に発展し、機能性よりも音響効果的な面に重きを置いた作品と言えそうです。
作品番号が大きい作品ほど、不思議な音響世界になりますね。
後期に展開するスクリャービンの特徴だな。練習曲では、不協和音とその効果に対する思惑といったものを感じ取れるぞ。
変遷と変貌。
魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。
「エチュード (練習曲)」はスクリャービンの全期に渡って、着手されていた作品群になります。そのため、スクリャービンの音楽語法の変遷を垣間見ることができます。
作品番号 Op.2やOp.8では、ショパンやリスト、チャイコフスキーと言った先達の影響を色濃く見せる作品です。情感がたっぷりと前面に出ています。
作品番号 Op.42では、機能和声の拡張と演奏技巧上の発展、ポリフォニックな処理など、スクリャービンの個性が滲み始めています。
そして、作品番号 Op.49以降の作品群です。
スクリャービンのオリジナリティが溢れ始めます。とりわけ、作品番号 Op.65は、スクリャービンが発明・開発した「神秘和音」に基づいている作品とも言えます。
技巧上の難易度以上に、不協和音程で組まれた楽曲を如何に美しく歌わせるか、といった点が注視されるエチュード(練習曲)になっています。
これらのエチュードは、単に演奏家のピアノ練習曲というだけではなく、作曲家の音楽語法を開発するためのエチュードでもあった言えそうです。
音楽家の略歴です。
アレキサンドル・エコラエヴィチ・スクリャービン 【露】1872-1915 初期はショパン風のピアノ曲を作曲。にちにリスト、ワーグナーの影響により新しい和音の探求に進む。神智学に心酔して、自己の芸術を神秘主義的思想に結びつけ、神秘和音、音と色彩の合一など20世紀音楽で展開される大胆な試みの先駆けをなした。内面世界の自由な表現として、詩曲と名づけた独特のジャンルの創造は注目される。 (「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)
確かに、初期作品として纏められている練習曲は、どっぷりロマン主義に浸っている感じがします。
後期のオリジナリティに注目されがちなスクリャービンだが、初期に展開したロマン主義的な曲想の中にも、作曲家の個性が滲み出ているぞ。
艶と恍惚。
五線譜に滲み出た法悦。
「スクリャービン ピアノ曲集 第一巻・エチュード集 (全曲)」(全音楽譜出版社)です。
譜面を見る限りでは、テクニカルなエチュード(練習曲)という枠組みから、切り離された感じがします。
一見してメカニカルなパッセージという区分に重点が置かれている訳ではないように思えます。
重ねた音で表現する旋律、小節線を跨ぐリズム、幅の広いアルペジオ、複雑に絡み合うポリフォニックな声部など、技巧上で難易度の高い箇所を、「いかに歌わせるか」という演奏上の技術を向上させる効果を期待した練習曲のように思えます。
そして、スクリャービンの独自和声への理解です。
とりわけ、作品番号 Op.65は、スクリャービンの後期作品を印象づける不協和音程の和音で構成されています。
その不協和音は、スクリャービンの作品に内在する「艶と恍惚」といった、特異な音響を伴っています。
スクリャービンの音楽思想から生み出された「法悦」ともいえる音響世界を、いかに美しく演奏するかといった課題を、提示されたエチュードのように感じます。
初期の頃からも複雑な造りになっていたようですね。特にリズムに見受けられます。
所謂クロス・リズムだな。リズム感でいえば、混合拍子や変拍子の多彩さにも注目だぞ。
【雑想】下手の横好き。(第98弾)
クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。
「Studio One」シリーズで打ち込んだクラシック音楽をお披露目するコーナーです。
今回は、<おすすめ度★★★>として紹介したスクリャービンの「12のエチュード 第12番 嬰ニ短調」です。
他作品を含め、下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。
・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)
クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。
長く続く趣味を持ちたいです。
前回から引き続き、スクリャービン編でした。
今回紹介した「エチュード (練習曲)」は、スクリャービンにとっても作曲技法上の「練習曲」になっていたと実感できる内容になっていたと思います。
とりわけ、後期の作品群からは「独自の語法の開発」といったスクリャービンの姿勢を強く感じ取れます。
エチュード(練習曲)という性質上、繰り返しのパターンで登場するため、より一層強く印象づけられる特異な音響世界です。
次回はスクリャービンの「マズルカ」を紹介します。
では、また。
練習曲にある、「無味乾燥」といったイメージは全く以てありませんでした。
前提として、演奏会用練習曲として創作されているからな。ショパンやリストと言った、ピアニスト兼作曲家の系譜を辿ったと言えるだろう。