こんにちは。はーねうすです。

今回は、「スクリャービン 前奏曲集 Vo.2」を紹介します。

前回に紹介した「スクリャービン 前奏曲集 Vol.1」と合わせて、スクリャービンの前奏曲全集として完結します。

「Vol.2」では、1900年辺りからの中後期作品が収められています。

またボーナストラックとして、若干11歳で夭逝した御子息であるユリアン・スクリャービンの前奏曲も収録されています。

ピアノ演奏は、エフゲニー・ザラフィアンツ氏です。

原題は「SCRIABIN Preludes, Vol.2」です。

★打ち込みクラシック

DAW(Digital Audio Workstation)で入力したクラシック音楽のDTM(DeskTop Music)作品を紹介するコーナーを巻末に設けています。
今回紹介するアルバムの中から1曲をピックアップしていますので、是非お楽しみください。

中後期に作曲された前奏曲集のようですね。

スクリャービンの作風ががらりと変わるターニング・ポイントを知れるアルバムとも言えそうだな。

【着想】神秘主義への軌跡。

「スクリャービン 前奏曲集 Vol.2」のコンテンツです。

「スクリャービン 前奏曲集 Vol.2」です。
スクリャービン 前奏曲集 Vol.2 レーベル[NAXOS]

機能和声の拡張を模索した中期頃の作品から、神秘主義的な音響世界を開発した後期の作品が軌跡のように収められていますので、スクリャービンの作風の変遷を実感できるアルバムとなっています。

No.曲名(1)曲名(2)作品番号No.曲名(1)曲名(2)作品番号
1Four PreludesNo.1: G sharp minorOp.2224Four PreludesNo.3: G majorOp.39
2Four PreludesNo.2: C sharp minorOp.2225Four PreludesNo.4: F minorOp.39
3Four PreludesNo.3: B majorOp.2226PreludeE flat major (Op.45, No.3)Op.45
4Four PreludesNo.4: BminorOp.2227Four PreludesNo.1: F sharp minorOp.48
5Two PreludesNo.1: G minorOp.2728Four PreludesNo.2: C majorOp.48
6Two PreludesNo.2: B majorOp.2729Four PreludesNo.3: D flat majorOp.48
7Four PreludesNo.1: D flat major/C majorOp.3130Four PreludesNo.4: C majorOp.48
8Four PreludesNo.2: F sharp minorOp.3131PreludeF major (Op.49, No.2)Op.49
9Four PreludesNo.3: E flat minorOp.3132PreludeA minor (Op.51, No.2)Op.51
10Four PreludesNo.1: C majorOp.3133PreludeE flat minor (Op.56, No.1)Op.56
11Four PreludesNo.1: E minorOp.3334Prelude― (Op. 59, No.2)Op.59
12Four PreludesNo.2: F sharp minorOp.3335Two PreludesOp.67
13Four PreludesNo.3: C majorOp.3336Two PreludesOp.67
14Four PreludesNo.4: A flat minorOp.3337Five PreludesOp.74
15Three PreludesNo.1: D flat minorOp.3538Five PreludesOp.74
16Three PreludesNo.2: B flat minorOp.3539Five PreludesOp.74
17Three PreludesNo.3: C majorOp.3540Five PreludesOp.74
18Four PreludesNo.1: B flat minorOp.3741Five PreludesOp.74
19Four PreludesNo.2: F sharp minorOp.3742*Four PreludesC majorOp.2
20Four PreludesNo.3: B majorOp.3743*Four PreludesB major (Op.3, No.1)Op.3
21Four PreludesNo.4: G minorOp.3744*Four Preludes― (Op.3, No.1)Op.3
22Four PreludesNo.1: F sharp minorOp.3945*Four PreludesD flat major
23Four PreludesNo.2: D majorOp.39
*: ユリアン・スクリャービン(1908 – 1919)のピアノ曲

ちょっとした所感です。

<おすすめ度★★★>

「No.14」:「Four Preludes No.4 A flat major」

5拍子という変拍子と、付点付きの三連符が複雑に絡まって、不思議なリズム感を生んでいる楽曲です。

旋律と伴奏のズレや徐々に昂揚する展開も相俟って、崩れゆく音響世界を演出しているようで素敵です。

「No.35」:「Four Preludes No.1」

調性記号が排された楽曲で、表現主義的な曲想と展開が特徴の楽曲です。

淡々と展開する構成、淡泊な線で描かれる旋律に支配されています。

不思議であり、不穏な音響空間によって神秘性が描き出されています。

「No.40」:「Five Preludes No.4」

無調性で描かれた、表現主義的な曲想が静謐に展開する楽曲です。

弦楽四重奏のように、旋律が多声部で描き出されています。

モチーフが同型で登場するため、表現主義的でありながらもどこがロマン主義的な様相を秘めています。

不思議な音響空間で展開される、線の絡み合いが美しく魅力的です。

<おすすめ度★★>

「No.2」:「Four Preludes No.2 C sharp minor」

印象主義と表現主義の狭間にいるような、不思議なサウンドが魅力の楽曲です。

絵画の様式美で例えるなら、象徴主義のようなイメージです。

「No.12」:「Four Preludes No.2 F sharp major」

調性感を保持した和声進行の上に、表現主義的な曲想の旋律を載せたような楽曲です。

一種独特の世界に放り込まれたかのような、不思議なサウンドに魅了されます。

「No.44」:「Four Preludes (Op.3, No.2)」

ユリアン少年の作品で、早熟というだけでは留まらない才気に溢れた楽曲です。

スクリャービンの後期のエチュード (練習曲)を彷彿とさせる展開と音響が特徴です。

短い構成の中で展開される、圧縮された曲想が魅力です。

「No.24」:「Four Preludes No.3 G major」

機能的な和声進行を放棄させる予兆のような楽曲です。

静謐な音響の中で、ぬるっと不穏な雰囲気を醸し出しています。

「No.34」:「Prelude (Op.59, No.2)」

調性を放棄する寸前といった感が漂う楽曲です。

フラストレーションをエネルギーに変換し放出した、といった様相を伴う強い打鍵で進行する構成が特徴です。

「No.37」:「Five Preludes No.1」

静と動、強と弱の落差が印象的な、表現主義的な曲想の楽曲です。

無聴感が漂う中で流れる線の絡まりが、不思議な美しさを醸し出しています。

<おすすめ度★>

「No.11」:「Four Preludes No.1 E major」

夜想曲風の、夢見るような柔らかい旋律と音響が特徴の楽曲です。

「No.15」:「Three Preludes No.1 D flat major」

急速かつ無窮動的に展開する楽曲です。

不穏な旋律の進行とは裏腹に、不思議と爽やかな印象を与えてくれるのが特徴です。

「No.18」:「Four Preludes No.1 B flat minor」

暗がりで黙想でもしているかのような、夜想曲風の曲想に支配された楽曲です。

「No.20」:「Four Preludes No.1 B major」

沈鬱な雰囲気に包まれた楽曲で、夜想曲風の旋律がとても美しいです。

「No.39」:「Five Preludes No.3」

緩と急、静と動、弱と強が混在して展開する不穏な展開に戦慄を覚える楽曲です。


スクリャービンのライフワークとも言うべき前奏曲からは、時代と共に変化した作風を顕著に伺うことができます。

芸術家としての姿勢の変貌をも窺い知れる、そんなアルバムです。

「スクリャービン 前奏曲集 Vol.2」です。
スクリャービン 前奏曲集 Vol.2 レーベル[NAXOS]

後期の作品を聴くと、「なんかヤバい世界に迷い込んだ」といった感があります。

恐怖や戦慄などの「負の心象風景」を惹起させる音響のためだろうな。無調性的かつ表現主義的な音楽の特徴でもあるぞ。

【観想】必要性から必然性への変化。

魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。

スクリャービンは、活動の全般にわたってピアノ用の前奏曲を作曲しています。

そのため、前奏曲集を対象として取り上げるだけでも、スクリャービンの作風の変化を端的に捉えることもできそうです。

ショパンやシューマンなどのロマン主義時代の先達に倣った時期。

リストやワーグナーなどを追うように、新しい機能和声の開発を目指した時期。

そして、神秘和音という独自の音楽語法を発明した時期。

初めは、芸術家として発展するための「必要性」として、新しい音楽語法の開発に臨んでいたのかもしれません。

ですが、神智学や東洋思想への接近などを経て、「必要性」としての新しい語法の開発は、「必然性」へ昇華し帰結したように思えます。

内的必然性、という視座はどこかシェーンベルクの音楽思想にも通じるところがあります。

前奏曲集は、いわば独自の音響世界を生み出したスクリャービンの来歴の総括とも言える作品群です。

音楽家の略歴です。

アレキサンドル・エコラエヴィチ・スクリャービン
【露】1872-1915
初期はショパン風のピアノ曲を作曲。にちにリスト、ワーグナーの影響により新しい和音の探求に進む。神智学に心酔して、自己の芸術を神秘主義的思想に結びつけ、神秘和音、音と色彩の合一など20世紀音楽で展開される大胆な試みの先駆けをなした。内面世界の自由な表現として、詩曲と名づけた独特のジャンルの創造は注目される。
(「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)

必要性から必然性への昇華ですね。「意気込み」や「気負い」といった想念から脱して、到達した高みのような感じがします。

必然性の帰結、とも呼べそうだな。

【追想】独自語法への発展。

変貌の履歴のような五線譜です。

「スクリアビン ピアノ曲集 第四巻・前奏曲集」です。
スクリアビン ピアノ曲集 第四巻・前奏曲集 全音楽譜出版社

「スクリアビン ピアノ曲集 第四巻・前奏曲集」(全音楽譜出版社)です。

今回紹介したアルバムとしては、「4の前奏曲 作品番号22」「2つの前奏曲 作品27」「4つの前奏曲 作品27」「4つの前奏曲 作品33」「4つの前奏曲 作品37」「4つの前奏曲 作品48」「2つの前奏曲 作品67」「5つの前奏曲 作品74」が収められています。

中後期の作品群には、初期には見受けられない劇的な変化が起こっています。

とりわけ、「2つの前奏曲 作品67」「5つの前奏曲 作品74」ですね。

調性記号を伴わない、無調性を前提とした姿勢で描かれています。

また内容も、同時代に活躍したシェーベルクの表現主義時代に属するような語法になっています。

そして、独自の神秘主義的な世界観を音楽によって創出していきます。

中期の作品群には「陶酔」「妖艶」「夢想」といった様相がありますが、まだ外的世界との接点が強く見受けられような音楽でした。

後期になると「倒錯」「恍惚」「法悦」といった様相へ変貌し、内的世界の具現化に至っています。

極端に発展した独自の音楽語法ですね。他の追随を許さないというよりはむしろ、「そもそも追随する者がいない」といった感があります。オリジナル・ワールドに閉じられすぎています。

実音を聴きながら楽譜を追うことで、少しでもスクリャービンの音楽思想を知ることができるのではないか、と期待しています。

調性記号を省いた楽曲の五線は、やっぱり臨時記号だらけになっていますね。

だが、臨時記号の数やバランスなどを含めて、音楽性とは異なった絵画的な美しさを見いだせるぞ。

【雑想】下手の横好き。(第101弾)

クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。

「Studio One」シリーズで打ち込んだクラシック音楽をお披露目するコーナーです。

今回は、<おすすめ度★★★>として紹介したスクリャービンの「5つの前奏曲 作品74 第4曲」です。

作曲家:アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービン 作曲年:1914

他作品を含め、下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。

・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)

クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。

・ミュージック(8bit クラシック_01)

長く続く趣味を持ちたいです。

前回から引き続き、スクリャービン編でした。

今回紹介した「前奏曲」は、スクリャービンとってはライフワークとも呼べる創作の要でした。

今回紹介したアルバムでは、中後期の前奏曲がピックアップされていました。

機能和声の拡張を計った中期の作品からは、夢想的な音響世界に魅了れます。

そして神秘和音などの独自の音楽語法を開発する後期の作品からは、作曲家が目指した神秘的な音響世界に浸ることができます。

スクリャービンの音楽語法とその書法を伺いしてる、そんなアルバムでしたね。

次回は変則回です。

では、また。

前奏曲集のアルバムでしたが、スクリャービンの来歴を垣間見るような作品群でしたね。

どこか、スクリャービンの日記を覗いていた感もあるよな。