こんにちは。はーねうすです。
今回は、「焔に向かって ~アシュケナージ・プレイズ・スクリャービン」を紹介します。
ウラディーミル・アシュケナージ氏による、スクリャービンのオムニバス・アルバムです。
スクリャービンの初期から後期のピアノ曲を、雄弁かつ詩的に演奏するアシュケナージ氏の豊かな音色を堪能できる1枚です。
スクリャービンの没後100年に、アシュケナージ氏にとっては30年振りのスクリャービン・オンリーのアルバムのリリースということもあって、記念碑的な内容にもなっています。
★打ち込みクラシック
DAW(Digital Audio Workstation)で入力したクラシック音楽のDTM(DeskTop Music)作品を紹介するコーナーを巻末に設けています。
今回紹介するアルバムの中から1曲をピックアップしていますので、是非お楽しみください。
スクリャービンのオムニバス・アルバムですね。
多彩な音色を奏でるアシュケナージ氏のピアニズムも聴き所だぞ。
目次
【着想】変容の系譜。
「焔に向かって ~アシュケナージ・プレイズ・スクリャービン」のコンテンツです。
オムニバス・アルバムですが、楽曲の配置は作曲された年代順になっています。そのため、時代を追うごとに様変わりしてゆくというスクリャービンの系譜とも言えます。
最期のトラックには、スクリャービンの息子ユリアン・スクリャービンの前奏曲を収めるという粋な計らいもあります。
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 | No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | 練習曲 作品2の1 | Andante (C sharp minor) | Op.2 | 23 | 3つの小品 作品45 | 第2曲: おどけた詩曲 | Op.45 |
2 | マズルカ 作品3から | VI. Scherzando (C sharp minor) | Op.3 | 24 | 3つの小品 作品45 | 第3曲: 前奏曲 | Op.45 |
3 | マズルカ 作品3から | VII. Con passione (E minor) | Op.3 | 25 | ワルツ風に 作品47 | ― | Op.47 |
4 | マズルカ 作品3から | X. Sotto voce (E flat minor) | Op.3 | 26 | 3つの小品 作品52 | 第1曲: 詩曲 | Op.52 |
5 | 練習曲 作品8から | V. Brioso (E major) | Op.8 | 27 | 3つの小品 作品52 | 第2曲: 謎 | Op.52 |
6 | 練習曲 作品8から | VII. Presto tenebroso, agitato (B flat mainor) | Op.8 | 28 | 3つの小品 作品52 | 第3曲: やつれの詩曲 | Op.52 |
7 | 練習曲 作品8から | X. Allegro (D flat major) | Op.8 | 29 | 2つの小品 作品57 | 第1曲: あこがれ | Op.57 |
8 | 練習曲 作品8から | XI. Andante cantabile (B flat minor) | Op.8 | 30 | 2つの小品 作品57 | 第2曲: 舞い踊る愛撫 | Op.57 |
9 | 練習曲 作品8から | XII. Patetico (D sharp minor) | Op.8 | 31 | アルバムの一葉 作品58 | ― | Op.58 |
10 | 4つの前奏曲 作品22 | I. Andante (G sharp minor) | Op.10 | 32 | 2つの詩曲 作品63 | 第1曲: 仮面 | Op.63 |
11 | 4つの前奏曲 作品22 | II. Andante (C sharp minor) | Op.10 | 33 | 2つの詩曲 作品63 | 第2曲: 不思議 | Op.63 |
12 | 4つの前奏曲 作品22 | III. Allegretto (B major) | Op.10 | 34 | 2つの詩曲 作品69 | I. Allegretto. Tendre, délicat | Op.69 |
13 | 4つの前奏曲 作品22 | IV. Andantino (B minor) | Op.10 | 35 | 2つの詩曲 作品69 | II. Allegreto. Aigu, capricieux | Op.69 |
14 | 8つの練習曲 作品42 | I. Presto (D flat major) | Op.42 | 36 | 2つの詩曲 作品71 | 第1曲: おどけて | Op.71 |
15 | 8つの練習曲 作品42 | II. ♩=112 (F sharp minor) | Op.42 | 37 | 2つの詩曲 作品71 | 第2曲: 空想して | Op.71 |
16 | 8つの練習曲 作品42 | III. Prestissimo (F sharp major) | Op.42 | 38 | 詩曲『焔に向かって』作品72 | ― | Op.72 |
17 | 8つの練習曲 作品42 | IV. Andante (Fsharp major) | Op.42 | 39 | 5つの前奏曲 作品74 | 第1曲: 苦しみ、悲痛な | Op.74 |
18 | 8つの練習曲 作品42 | V. Affannato (C sharp minor) | Op.42 | 40 | 5つの前奏曲 作品74 | 第2曲: 十分に遅く、瞑想的に | Op.74 |
19 | 8つの練習曲 作品42 | VI. Esaltato (D flat major) | Op.42 | 41 | 5つの前奏曲 作品74 | 第3曲: 劇的アレグロ | Op.74 |
20 | 8つの練習曲 作品42 | VII. Agitato (F minor) | Op.42 | 42 | 5つの前奏曲 作品74 | 第4曲: ゆっくりした、漠然と、あいまいな | Op.74 |
21 | 8つの練習曲 作品42 | VIII. Allegro (E flat major) | Op.42 | 43 | 5つの前奏曲 作品74 | 第5曲: 高慢な、好戦的な | Op.74 |
22 | 3つの小品 作品45 | 第1曲: アルバムの一葉 | Op.45 | 44* | 前奏曲 作品3の1 | ― | Op.3 |
ちょっとした所感です。
<おすすめ度★★★>
「No.38」:「詩曲『焔に向かって』作品72」
静謐で瞑想的な神聖さと、熱情的な恍惚感が合わさったような楽曲です。仄暗い箇所から明るみに抜けるような、壮大さも特徴です。
沈思黙考のような沈鬱さを伴った冒頭から徐々に昂揚してゆき、感が極まったかのような迫力で終焉を迎えます。
機能和声から外れた独自の音楽語法で描かれていますが、明快な音型で象られたモチーフや明確な展開がある構成なので、音楽に期待する要素が多く詰め込まれていると感じ取れます。
とてもロマンティックで素敵な内容で、スクリャービンの集大成という評に合致する楽曲です。
「No.31」:「アルバムの一葉 作品58」
独自に組まれた和音で描き出される世界観の虜になる楽曲です。
特徴的な装飾音と付点付きの3連符が生み出す、幻惑的な音響と魅惑的な旋律が魅力です。
微睡みの中で見た夢幻のようで、恍惚感に浸りそうになります。
「No.22」:「3つの小品 作品45 第1曲: アルバムの一葉」
情に訴えかけるような、淡い線で描かれた甘美な旋律と和声が魅力的な楽曲です。
移ろいゆくように進行する、穏やかで柔らかな音響世界に引き込まれます。
「No.34」:「2つの詩曲 作品69 I. Allegretto. Tendre, délicat」
表現主義の装いを伴った、神聖さの中に恍惚とした雰囲気を感じる楽曲です。
独自の音楽語法を全展開し、オリジナルな世界観を構築しています。
<おすすめ度★★>
「No.37」:「2つの詩曲 作品71 第2曲: 空想して」
自儘に展開する、表現主義風の曲想が特徴の楽曲です。
諧謔性を伴った曲調の中にある、一種のおどろおどろしさが大変魅力的です。
「No.5」:「練習曲 作品8から V. Brioso (E major)」
緩やかに展開される優美な主要部と、低音域で重く響く和音が特徴の楽曲です。
楽曲にイメージするテンポよりも速めに演奏されており、情感に流されるよりも演習曲としての質に重点を置いた感じがします。
「No.42」:「5つの前奏曲 作品74 第4曲: ゆっくりした、漠然と、あいまいな」
弦楽四重奏曲のように、ポリフォニックな四声で紡ぎ出される楽曲です。
不協和な声部の組み合わせでありながら、明快なモチーフの輪郭が構成を支えているため、独特の美しさを感じられます。
「No.33」:「2つの詩曲 作品63 第2曲: 不思議」
印象主義と表現主義の間にあるような、幻想的な装飾性に満ちた楽曲です。
グリッサンドのように急速で昇降する音型と、素早く打ち鳴らされるアルペジオが特徴です。
<おすすめ度★>
「No.24」:「3つの小品 作品45 第3曲: 前奏曲」
夜想曲に即興性を織り込んだかのような、先の展開が読みにくい楽曲です。
ファンタジックな曲想がとても素敵です。
「No.29」:「2つの小品 作品57 第1曲: あこがれ」
妖しくて艶めかしい、官能的な響きを持つ楽曲です。
甘美な世界に陶酔しているかのような錯覚に陥ります。
「No.26」:「3つの小品 作品52 第1曲: 詩曲」
印象主義と表現主義の間にあるような、謎めいた音響が魅力の楽曲です。
不思議な和音の上で描かれる、朧気な旋律が美しいです。
同じ作曲家が生み出した楽曲とは思えないほど、様変わりを見せるのがスクリャービンの特長です。
アシュケナージ氏は、その時々の作曲家の精神に寄り添ったかのような演奏を聴かせてくれます。演奏技術も然る事ながら、「解釈と再現」といった点に感服します。
「解釈と再現」、作品へのアプローチということですよね。演奏に欠かせな要素だと思います。
アシュケナージ氏は、スクリャービンの思想を演奏で代弁しているとも言えうるな。
【観想】孤高の極み。
魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。
スクリャービンの独自性には、機能和声の拡張や独自語法の開発から導き出された「神秘和音」の発明などの和声的な音響面が挙げられます。
また、「プロメテウス – 火の詩」のように、「音と色の融合」などの前衛的な働きも挙げられます。
そして、ピアノによる「詩曲」というジャンルの構築も挙げられるでしょう。
告解と詩情が組み合わさったかのような、独白のようなセンチメンタリズムが際立っています。
諧謔や自虐がひっそりと内在しているも特徴っぽく感じます。
孤高の極みといった感が強く、「押しつけがましさが皆無」といった点がとても魅力です。
音楽家の略歴です。
アレキサンドル・エコラエヴィチ・スクリャービン 【露】1872-1915 初期はショパン風のピアノ曲を作曲。にちにリスト、ワーグナーの影響により新しい和音の探求に進む。神智学に心酔して、自己の芸術を神秘主義的思想に結びつけ、神秘和音、音と色彩の合一など20世紀音楽で展開される大胆な試みの先駆けをなした。内面世界の自由な表現として、詩曲と名づけた独特のジャンルの創造は注目される。 (「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)
後期になると、オリジナリティ一色といった感がありますね。
オリジナリティを生み出すことが目的ではなく、自身の思想や信仰を表現する音楽を突き詰めた結果に辿り着いたオリジナリティだな。
【追想】ペダリングの妙。
音響効果への飽くなきこだわりを感じます。
「スクリアビン ピアノ曲集 第五巻 幻想曲 詩曲 小品集」(全音楽譜出版社)です。
今回紹介したアルバムとしては、「3つの小品 作品45 第1曲 アルバムの一葉」「2つの小品 作品57 第1曲: あこがれ」「アルバムの一葉 作品58」「2つの詩曲 作品63」「2つの詩曲 作品69」「詩曲『焔に向かって』作品72」が収められています。
スクリャービンの譜面に見受けられる特徴のひとつとして、細やかなペダル指示が挙げられます。
記号以外にも、「Ped.come sopra」「Ped.come prima」などの扱い方への指示などや「senza pedal」など使用を不可とする指示もあります。
中には記号に加えて「con sord」という「弱音器を付ける」といった意味合いを伴う指示も見受けられます。(ピアノ演奏に疎いブログ管理者としては「どういうこと?」ってなってしまいます)
ペダルを踏み込む深度、切り替えの速度など様々です。
スクリャービンが構築する音楽世界にとって、「響き」が如何に重要であるのかを示す証左になっていますね。
ペダル記号の数が多くてびっくりする、というようなことはなさそうですね。
ペダル記号の配置箇所やバランスなどから、ペダルの使用に持たせた意味合いを理解するのがポイントと言えるぞ。
【雑想】下手の横好き。(第103弾)
クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。
「Studio One」シリーズで打ち込んだクラシック音楽をお披露目するコーナーです。
今回は、<おすすめ度★★★>として紹介したスクリャービンの「3つの小品 作品45 第1曲 アルバムの一葉」です。
他作品を含め、下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。
・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)
クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。
長く続く趣味を持ちたいです。
スクリャービン編の戻ってきました。
スクリャービンの全期に渡るピアノ曲のアムニバス・アルバムでしたね。
アシュケナージ氏の雄弁で色彩豊かなピアニズムに惚れ惚れします。
圧巻はやはり、アルバムのタイトルにもなっている「詩曲『焔に向かって』」です。
正直なところ、この1曲のために購入したアルバムです。それだけ魅力的な楽曲です。
次回はスクリャービンの「ピアノ協奏曲、プロメテウス – 火の詩」を紹介します。
では、また。
アシュケナージ氏とスクリャービンの親和性を感じ取れる内容でしたね。
スクリャービンの思想を代弁している、いと言われる所以だな。