こんにちは。はーねうすです。
今回は、「メトネル ピアノ・ソナタ全集」を紹介します。
メトネルは、20世紀中期頃まで活動したロシアの作曲家です。音楽活動の中心をピアノに置いたコンポーザー・ピアニストでもありました。
アルバムには、メトネルのピアノ・ソナタ全曲が収められています。加えて、ソナタ形式を作品を伴う「忘れられた調べ」なども収められています。
CD4枚組という圧巻のボリュームになっています。
ピアノ演奏は、マルク=アンドレ・アムラン氏です。
原題は、「Medtner THE COMPLETE PIANO SONATAS / FORGOTTEN MELODIES I, II」です。
★打ち込みクラシック
DAW(Digital Audio Workstation)で入力したクラシック音楽のDTM(DeskTop Music)作品を紹介するコーナーを巻末に設けています。
今回紹介するアルバムの中から1曲をピックアップしていますので、是非お楽しみください。
メトネル、あまり聞かない名前ですね。
ラフマニノフやストラヴィンスキーといった、同時代・同郷の作曲家の影に隠れてしまっている感は否めないな。
目次
【着想】透徹されたピアノ音楽。
「メトネル ピアノ・ソナタ全集」のコンテンツです。
メトネルの音楽は、20世紀としては珍しく前時代的な調性音楽で占められています。前衛的な音楽作品の創出よりもむしろ、形式美や様式美といった古典的な手法を高度に発展させることに自身の語法を見いだしたように感じます。
CD1
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | ソナタ ヘ短調 | 第1楽章:アレグロ | Op.5 |
2 | ソナタ ヘ短調 | 第2楽章:インテルメッツォ:アレグロ | Op.5 |
3 | ソナタ ヘ短調 | 第3楽章:ラルゴ・ディヴォト | Op.5 |
4 | ソナタ ヘ短調 | 第4楽章:フィナーレ:アレグロ・リソルート | Op.5 |
5 | 2つのおとぎ話 | アンダンティーノ (ハ短調) | Op.8 |
6 | 2つのおとぎ話 | アレグロ (ハ短調) | Op.8 |
7 | ソナタ三部作 | ソナタ 変イ長調 | Op.11 |
8 | ソナタ三部作 | ソナタ ニ短調 (悲歌のソナタ) | Op.11 |
9 | ソナタ三部作 | ソナタ ハ長調 | Op.11 |
CD2
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | ソナタ ト短調 | テネプローソ、センプレ・アンフェレッタント – アレグロ・アッサイ – インテルルディウム (アンダンテ・ルグブレ) – アレグロ・アッサイ | Op.22 |
2 | おとぎ話ソナタ ハ短調 | アレグロ・アバントナメンテ | Op.25-1 |
3 | おとぎ話ソナタ ハ短調 | アンダンティーノ・コン・モト | Op.25-1 |
4 | おとぎ話ソナタ ハ短調 | アレグロ・コン・スピリト | Op.25-1 |
5 | ソナタ ホ短調「夜の風」 | 第1楽章:イントロドゥツィオーネ:アンダンテ – アレグロ | Op.25-2 |
6 | ソナタ ホ短調「夜の風」 | 第2楽章:ポコ・エ・ポコ・アレグロ・モルト・スフレナメンテ、プレスト | Op.25-2 |
CD3
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | ソナタ=バラーダ ヘ長調 | 第1楽章:アレグレット | Op.27 |
2 | ソナタ=バラーダ ヘ長調 | 第2楽章:イントロドゥツィオーネ:メスト | Op.27 |
3 | ソナタ=バラーダ ヘ長調 | 第3楽章:フィナーレ:アレグロ | Op.27 |
4 | ソナタ イ短調 | アレグロ・リソルート – アレグロ・モルト | Op.30 |
5 | 忘れられた調べ 第1集 | 第1曲:追憶のソナタ イ短調 | Op.38 |
6 | 忘れられた調べ 第1集 | 第2曲:優美な舞曲 | Op.38 |
7 | 忘れられた調べ 第1集 | 第3曲:祭りの舞曲 | Op.38 |
8 | 忘れられた調べ 第1集 | 第4曲:川の歌 | Op.38 |
9 | 忘れられた調べ 第1集 | 第5曲:田舎の舞曲 | Op.38 |
10 | 忘れられた調べ 第1集 | 第6曲:夕べの歌 | Op.38 |
11 | 忘れられた調べ 第1集 | 第7曲:森の舞曲 | Op.38 |
12 | 忘れられた調べ 第1集 | 第8曲:追憶風に | Op.38 |
CD4
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | 忘れられた調べ 第2集 | 第1曲:瞑想 | Op.39 |
2 | 忘れられた調べ 第2集 | 第2曲:ロマンス | Op.39 |
3 | 忘れられた調べ 第2集 | 第3曲:春 | Op.39 |
4 | 忘れられた調べ 第2集 | 第4曲:朝の歌 | Op.39 |
5 | 忘れられた調べ 第2集 | 第5曲:悲劇的なソナタ ハ短調 | Op.39 |
6 | ソナタ 変ロ短調「ロマンティックなソナタ」 | 第1楽章:ロマンツァ:アンダンティーノ・コン・モート、ア・センプレ・エクスプレッシーヴォ | Op.53-1 |
7 | ソナタ 変ロ短調「ロマンティックなソナタ」 | 第2楽章:スケルツォ:アレグロ | Op.53-1 |
8 | ソナタ 変ロ短調「ロマンティックなソナタ」 | 第3楽章:メディタッツィオーネ:アンダンテ・コン・モト | Op.53-1 |
9 | ソナタ 変ロ短調「ロマンティックなソナタ」 | 第4楽章:フィナーレ:アレグロ・ノン・トロッポ | Op.53-1 |
10 | ソナタ ヘ短調「嵐のソナタ」 | アレグロ・ソステヌート | Op.53-2 |
11 | 牧歌風のソナタ ト長調 | パストラーレ:アレグレット・カンタービレ | Op.56 |
12 | 牧歌風のソナタ ト長調 | アレグロ・モデラート・エ・カンタービレ | Op.56 |
ちょっとした所感です。
<おすすめ度★★★>
「CD3_No.5」~「CD3_No.12」:「忘れられた調べ 第1集」
第1曲「追憶のソナタ」:
聴き馴染みやすい民謡風の主題が特徴的な楽曲です。
ノスタルジーとセンチメンタリズムが溶け合った旋律美が美しい内容で、曲集に通底する主題を構築しています。
第2曲「優美な舞曲」:
都会的な洒脱と、民俗的な哀愁が組み合わさったかのような楽曲です。
二項対立のバランスを保った構成がユニークです。
第3曲「祭りの舞曲」:
無窮動に流れゆく、活気に溢れた楽曲です。
第4曲「川の歌」:
感傷的な旋律と流麗な伴奏型が美しい楽曲です。
淡い線で描かれる旋律が、流れに乗って徐々に昂揚する様で展開します。
第5曲「田舎の舞曲」:
無窮動に旋回する曲想が特徴の楽曲です。
第6曲「夕べの歌」:
郷愁感と哀愁感の漂う物悲しげな旋律が特徴の楽曲です。
脆く儚げな主要部と、強く抗うように展開する部位との対比が素敵です。
第7曲「森の舞曲」:
どこかコミカルに感じる律動が特徴の楽曲です。
戯けた感の背後で、異様に高度なリズムの操作が施されています。
第8曲「追憶風に」:
夢想するように曲集を締めくくる楽曲です。
第1曲から通底する主要主題が、回想のように登場する優美な楽曲です。
<おすすめ度★★>
「CD1_No.1」~「CD1_No.4」:「ソナタ ヘ短調」
第1楽章:
陰惨気味で落ち着きのない、情緒の乱れを表わしたかのような曲想が特徴の楽曲です。
メランコリックな旋律で奏でるモチーフが繰り返されては不安定に揺れ動く第1主題と、幾分勇壮的な旋律で奏でられる第2主題で構成されています。
主題が入り乱れる圧巻の展開部を経て、第1主題をモチーフとした激しいパッセージを伴う結尾で締めくくられます。
第2楽章:
不気味で不穏な低音部の動きが特徴の楽曲です。
第3楽章:
表現主義的な曲想の楽曲です。
重苦しい葬送曲のような主要部と、激しく展開する副次的な部位の対比が特徴です。
第4楽章:
勇ましく突き進む、威勢のある楽曲です。
第1楽章の主題が回想のように変化して登場します。勢いはそのままにして曲想が表情を変えてゆきます。
少しの小康状態を挟んだ後、第1楽章の主題を豪快に変奏させた結尾で締めくくられます。
「CD2_No.2」~「CD2_No.4」:「おとぎ話ソナタ」
1曲目:
バラードのように、物語性のある展開が特徴の楽曲です。
明確な輪郭を描く旋律と、激烈に動く伴奏型に魅了されます。
2曲目:
ノクターン風に進行する、夢想的な美しさを持つ楽曲です。
淡い夢心地を再現したような線で描かれる旋律と、力強く熱量のある伴奏型の組み合わせが素敵です。
3曲目:
リズムと拍の取り方に特徴のある、行進曲風の楽曲です。
「CD2_No.5」:ソナタ ホ短調「夜の歌」
第1楽章:
まるでピアノで奏でる交響詩のような、雄大でドラマティックな楽曲です。
各所に登場する主題は、個々が個性を主張しているようでありながら、巧みな動機の操作によう有機的な連関であることに驚かされます。
第2楽章:
血気盛んに突き進む、抑えきれない感情や懊悩を吐出したかのような楽曲です。
目まぐるしく動き回るパッセージや、短く刻まれた同音の連打で生み出す音響が素敵です。
<おすすめ度★>
「CD4_No.1」~「No.5」:「忘れられた調べ 第2集」
第1曲「瞑想」:
華麗な装飾で彩られた、幻想的な楽曲です。
華やかな彩りの中に、内省的で思念のような深みがありませす。
第2曲「ロマンス」:
装飾過多気味の音響が、謎めいた不穏な雰囲気を生み出す楽曲です。
随所で短く強調されるワルツのリズムが、不安な心境を際立たせる効果になっています。
第3曲「春」:
猛烈な歓喜と感動を音にしたような楽曲です。
第4曲「朝の歌」:
バルカローレ風の動きに載せた、明朗な楽曲です。
どこか幸福感で満たされている感がある内容になっています。
第5曲「悲劇的なソナタ」:
緊張と緊迫、緩衝と緩和が相まみえたような楽曲です。
強烈な打撃で始まる第1主題、第1主題を穏やかな表情に変化させた第2主題で構成されています。
不穏な形で進行する展開、主題の再利用で効果的に形成した結尾で締めくくられます。
「CD4_No.10」:ソナタ ヘ短調「嵐のソナタ」
徹底したモチーフの操作で、大規模なソナタを構成する様を提示した楽曲です。
メトネルの形式美の真骨頂とも言える内容になっています。
古典的な手法と、ロマン主義的な曲想が見事に調和した楽曲が多いですね。
また、「おとぎ話」というジャンルの構築が、メトネルのこだわりであったことも強く印象づけるアルバムでした。
20世紀の作曲家としては、ソナタの数が異例のような気がします。
メトネルの特徴でもある「モチーフの巧みな操作」が、ソナタという形式と相性が良く、多く作曲する理由だったのかもしれないな。
【観想】孤高の作曲家。
魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。
メトネルは、同時代・同郷かつ同様にピアノを中心に据えて活動したラフマニノフやスクリャービンのような知名度はありません。
ポピュラリティといった面では、ラフマニノフのような旋律美で聴衆を酔わせることはありませんでした。
独創性といった面では、スクリャービンのような独自の音楽語法を開発するといった傾向は示しませんでした。
加えて、同時期に人気を博していたストラヴィンスキーの存在も大きいです。
ストラヴィンスキーの音楽と比較すると、メトネルの音楽は極めて保守的と捉えられてもおかしくはありません。
時代精神と折り合わなかった、と言わざるを得ません。
ただし、あくまでも当時の評判にすぎません。
メトネルの魅力は、前時代の精神を拡張した純音楽としての美にあります。
今回紹介したピアノ・ソナタが好例です。
小さなモチーフが機能的で有機的な連関を伴って発展し、ひとつの音楽を形作る手法は、形式美や極みと言えるでしょう。
伝統的な機能和声を巧みに操作し、配置や転回で多様な音色を生み出す手法、ロマン主義的な様式美の極みと言えるでしょう。
メトネルには、時代精神を切り離した孤高の作曲家といった感が伴います。
音楽家の略歴です。
ニコライ・カルロヴィチ・メトネル
【露→英】1880-1951
古くからロシアに定住したドイツ人の家系。モスクワ音楽院に学び、ピアノ・ヴィルトゥオーソとして出発。ドイツ・ロマン派音楽に傾倒し、抒情性をもった物語音楽としての「おとぎ話」という小品ジャンルに腐心。
(「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)
確かに、スクリャービンやストラヴィンスキーと比べれば、如何にもロマン主義精神に傾倒した作曲家と呼ばれてもしかたがありませんね。
あくまでも「当時の時代精神とはマッチしていない」というだけであって、音楽的に劣っている訳ではない点に注意しような。
【追想】学術研究書を兼ねた楽譜。
バージョン違いの初期稿などが収められています。
「メトネル ピアノのための”忘れられた調べ” 第1集 作品38」(全音楽譜出版社)です。
今回紹介したアルバムに収録されていた「忘れられた調べ 第1集 作品38」がまるごと収められています。
譜面だけでなく、メトネルという作曲家の生涯や音楽性が解説(高久暁氏[著])されています。
11ページにも及ぶ「ニコライ・メトネル 生涯と受容の軌跡」(高久暁氏[編])と題された、音楽家の略歴は圧巻です。
メトネルの楽譜には「初版楽譜」や旧ソヴィエトで出版された「作品全集」との間で見られる「内容の相違」があり、それらをどのように分析、整理したのかが克明に記されています。
自筆譜、手稿譜やスケッチなどがどのように改めて再検討されのかは楽曲ごとに「校訂要旨」として記載されています。
そして、注目は付録として収録されている初期バージョンの譜面です。
「森の舞曲 [異なるコーダを伴う初期バージョン]」、「カンツォーナ [『回想ふうに』の初期稿を伴う『夕べの歌』の初期バージョン]」です。
「この箇所には、メトネル自身の筆跡で~」というように原資料に添えられたメモ書きにも配慮されています。驚きですね。
日本ではメトネルの研究書をまずお目にかかることはなので、このような楽譜はとても貴重ですね。
単なる楽譜といった様相ではない感じがする、とても濃い内容ですね。
メトネル研究の成果とその報告も受け取れる楽譜だな。
【雑想】下手の横好き。(第111弾)
クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。
「Studio One」シリーズで打ち込んだクラシック音楽をお披露目するコーナーです。
今回は、<おすすめ度★★★>として紹介したメトネルの「忘れられた調べ 第1集 第6曲『夕べの歌』」です。
他作品を含め、下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。
・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)
クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。
長く続く趣味を持ちたいです。
1回こっきりのメトネル編でした。
メトネルの魅力は何と言っても、モチーフの展開とその多様さにあります。
ソナタという形式を好むブログ管理者にとっては、とても魅力的な作曲家です。
そんな作曲家のピアノ・ソナタがまるごと収められた全集を購入しないはずはありません。
購入の際、4枚組というボリュームに興奮した記憶があります。
全集って良いですよね。
では、また。
全集となると、それなりにCDの枚数も多くなりますよね。
「交響曲全集」のように「ジャンル」で纏めるのか、「初期作品全集」のように「時代区分」で纏めるのかといった企画の違いなどにもよるが、結局は作曲家が残した作品点数に因むよな。