こんにちは。はーねうすです。
今回は、「ドヴォルジャーク 交響詩集」を紹介します。
ドヴォルザークが手掛けた5つの交響詩の内、4作品が収められたCD2枚組のアルバムです。
ドヴォルザークの管弦楽曲と言えば交響曲というイメージが強いですが、標題性のある交響詩はドヴォルザークの豊かな曲想にあったジャンルでもあります。
演奏は、サイモン・ラトル氏の指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団です。
ドヴォルザークの交響詩ですね。
標題性がある、物語的な展開が楽しい楽曲だぞ。
目次
【着想】生粋のスラブ。
「ドヴォルジャーク 交響詩集」のコンテンツです。
ドヴォルザークはチェコの作家カレル・ヤロミール・エルベンの詩集「民話の花束」から題材を得て交響詩を作曲しています。そのどれもがスラブの民謡や民話を下地にしたものばかりです。
CD1
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | 交響詩「金の紡ぎ車」 | 1. アレグロ・マ・ノン・トロッポ | Op.109、B197 |
2 | 交響詩「金の紡ぎ車」 | 2. モルト・ヴィヴァーチェ | Op.109、B197 |
3 | 交響詩「金の紡ぎ車」 | 3. レント | Op.109、B197 |
4 | 交響詩「金の紡ぎ車」 | 4. アレグロ・マ・ノン・トロッポ | Op.109、B197 |
5 | 交響詩「野ばと」 | 1. アンダンテ・マルチア・フネーブレ | Op.110、B198 |
6 | 交響詩「野ばと」 | 2. アレグロ | Op.110、B198 |
7 | 交響詩「野ばと」 | 3. モルト・ヴィヴァーチェ | Op.110、B198 |
8 | 交響詩「野ばと」 | 4. アンダンテ | Op.110、B198 |
CD2
No. | 曲名(1) | 曲名(2) | 作品番号 |
1 | 交響詩「真昼の魔女」 | 1. アレグレット | Op.108、B196 |
2 | 交響詩「真昼の魔女」 | 2. アンダンテ・ソステヌート・エ・モルト・トランクイロ | Op.108、B196 |
3 | 交響詩「真昼の魔女」 | 3. アンダンテ | Op.108、B196 |
4 | 交響詩「水の精(ヴォドニーク)」 | 1. アレグロ・ヴィーヴォ | Op.107、B195 |
5 | 交響詩「水の精(ヴォドニーク)」 | 2. アンダンテ・メスト・コメ・プリマ | Op.107、B195 |
6 | 交響詩「水の精(ヴォドニーク)」 | 3. ウン・ポコ・ピウ・モッソ | Op.107、B195 |
7 | 交響詩「水の精(ヴォドニーク)」 | 4. アレグロ・ヴィヴァーチェ | Op.107、B195 |
ちょっとした所感です。
<おすすめ度★★★>
「CD1_No.4」~「CD1_No.8」:「交響詩『野ばと』」
第1曲:
陰鬱で、弱々しい音響が特徴の楽曲です。
嘆き悲しむかのように奏でられる主部が延々と続きます。
後半に登場する、弦で奏でられる下降の音型がまるで啜り泣きを表現しているようです。
第2曲:
陽気と陰気がバッティングしたような楽曲です。
楽観と悲観を絵に描いたような、あからさまなモチーフの扱いが印象的です。
第3曲:
祝宴の席で添えられる、典雅なワルツといった様相の楽曲です。
立ち替わり入れ替わる、忙しないリズムの応酬で構成された主題と、優雅で華麗な主題で構成されています。
第4曲:
悲劇的な破滅と終焉を表現したような楽曲です。
不気味に唸る重厚な管弦楽で提示される主題が印象的です。
中間部に差し込まれる、ヴァイオリン・ソロによる物悲しい旋律が美しいです。
物語の結末は、まるで救いがなかったことを示すような不思議な旋律で表現され、静かに締めくくられます。
<おすすめ度★★>
「CD2_No.4」~「CD2_No.7」:「交響詩『水の精(ヴォドニーク)』」
第1曲:
深い森での逃避行を描いたような、心理描写のような楽曲です。
追われる恐怖を鬼気迫る音響で表現した部位と、逃げおおせたかのように落ち着いた情感を描いた部位で構成されています。
また、叙情的な歌を歌う箇所など、表情が豊かです。
第2曲:
ペシミズムに彩られた、憂鬱な心境を表現した楽曲です。
管楽主体で、吐き出されるように歌われる嘆きの主題が特徴です。
主題が弦楽で繰り返され、より陰鬱な気分を深めていきます。
後半になって少し復調したように、明るい旋律が歌われます。
第3曲:
喜怒哀楽の移り変わりが激しい様子を描いたような楽曲です。
強弱、緩急などの起伏が激しいのが特徴です。
後半静かになり、あたかも冷め切った様子を描いているのがユニークです。
第4曲:
物語の結末に向かった、猛進するかのように強調され行く様が印象的な楽曲です。
猪突猛進するかのごとく勢いよく展開する主要部と、祭りの後の侘しさを表現したかのような静まり返って部位との対比が印象的です。
結尾では、酷く物悲しい旋律が紡がれて閉じられます。
「CD2_No.1」~「CD2_No.3」:「交響詩『真昼の魔女』」
第1曲:
田園風景の中で繰り広げられる、一片の日常を描いたかのような楽曲です。
牧歌的で長閑な旋律を奏でる主要部の後、雷鳴のように激昂が振り下ろされる様を描いた部位が登場します。
まるで気分の移り変わりを表現しているかのようで、とてもユニークです。
第2曲:
日常に忍び込んだ恐怖を描いたかのような楽曲です。
極度に弱められた部位は、這い寄ってくる恐怖を示しているようで酷く不気味です。
突如打ち鳴らされる轟音は、あからさまな脅威を表わしているように感じます。
第3曲:
悲劇的な終焉を描いた楽曲です。
感傷的で寂寥感のある旋律が支配的です。
劇的な幕切れを描いたか結尾によって締めくくられます。
<おすすめ度★>
「CD1_No.1」~「CD1_No.4」:「交響詩『金の紡ぎ車』」
第1曲:
明るく前向きで、活気に満ちた楽曲です。
陽気に闊歩するような主題、午睡したくなるような気怠い主題、高らかに歌われる主題など、前進的な感が強い内容になっています。
第2曲:
威圧感と逼迫感で埋め尽くされた楽曲です。
柔和な旋律と高圧な音響の掛け合いで提示される前半、跳ねるような躍動感を持った中間、物憂げでありながら甘美な線を描く後半、といった構成になっています。
第3曲:
幻想的な雰囲気に包まれた楽曲です。
管楽の各パートが、それぞれが独奏のように登場して物語を紡いでいます。
第4曲:
謎解きのどんでん返しを描いたかのような楽曲です。
王宮で奏でられる祝賀のBGMか、凱旋の行進曲のような主要部が提示されます。
その後一変して、陰湿で恨みがましく鬱屈した感情を示したような音響で構成された部位が続きます。
そして、祝祭の儀のような晴れやかなサウンドで締めくくられます。
どの作品も、安穏と殺伐の対比が強調されて描き出されています。
残虐で残酷な物語の展開は、豊かな曲想に支えられていることが明らかです。
ドヴォルザークの強みであり、個性とも言える豊富な曲想が遺憾なく発揮された作品ばかりですね。
心理描写や情景、場面転換など、それぞれに合致したモチーフの扱いが見事です。
ところで、残りひとつの交響詩とは何でしょうか。
「英雄の歌」だな。この作品の明確な底本は示されていない。エルベンの作品でないことは確かなので、このアルバムから外れていると考えても良いな。
【観想】充実のライナーノーツ。
魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。
今回紹介したアルバム「ドヴォルジャーク 交響詩集」の魅力のひとつとして、充実したライナーノーツを挙げることができます。
なんといっても、各交響詩の元になった「エルベンの詩」(「水の精(ヴォドニーク)」「真昼の魔女」「金の紡ぎ車」「野ばと」)が掲載されている点ですね。
関根日出男氏の翻訳で、13ページに渡って掲載されています。
エルベンの詩を邦訳で読める機会は少ないので、とても貴重であり、重宝します。
テキストとして読むことで、その内容も明らかになります。
そのどれもが、残虐で残酷な寓話です。その哀しみに彩られた物語を綴った詩は、耽美です。
また、各交響詩のキーとなるモチーフやテーマの譜面を掲載していることが挙げられます。
詩のテイストを作曲家はどのようにモチーフへと転換させているのかという秘密を覗くことができます。
ファイルをダウンロードしたり、サブスクリプションのサービスで音楽を楽しむ機会が多い昨今、ライナーノーツを手にする機会は減っていると思います。
CDアルバムとして音楽を購入するメリットして、ライナーノーツの存在も大きいでしょう。
音楽家の略歴です。
<略歴> アントニン・ドヴォルザーク
【チェコ】1841-1904
チェコ国民楽派最大の作曲家。国民音楽の創造に腐心していたスメタナから強い影響を受けた。1875年、オーストリア政府奨学金を獲得、その審査員の一人のブラームスの知遇を得て、作品が世に知られるようになり、また作風にもブラームスの影響が強く表われるようになった。しかし、これらを包含して国民主義的傾向はされに深められ、晩年に向けて一連の傑作を生む。
(「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)
豊かな曲想を制御するのに苦労したというのは、作曲家を志す者にとっては羨ましい話ですよね。
ドヴォルザークは、同時代の作曲家から嫉妬されていたというエピソードがあるぞ。
【追想】晩年の純器楽。
交響詩は晩年の大成です。
「大作曲家 ドヴォルザーク」(クルト・ホノルカ[著]/岡本和子[訳]/音楽之友社)です。
当ブログ、「ドヴォルザーク ピアノ三重奏曲 第1・2番」でも取り上げさせていただきましたが、「交響詩」についても記載があります。
「晩年」という章で、取り上げられています。
154ページから158ページにわたって描かれています。
「旧大陸でも新大陸でも有名な交響曲の巨匠ドヴォルザークが、(リストとリヒャルト・シュトラウスを範とする) ≪新ドイツ楽派≫と呼ばれる流れに加わった理由は何だったのだろうか。」(154ページ抜粋)
とあり、リストを尊敬し、アメリカからの帰国後は集中的にリスト作品を研究していたことを挙げています。(154、155ページ)
また、リヒャルト・シュトラウスの初期の交響詩『ドン・ファン』、『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら』、『死と変容』を綿密に研究していたことを挙げています。(155ページ)
「交響曲 第9番」以降、標題音楽の代表である交響詩に取り組んだ理由は、明確には分かりません。
ただ、「交響曲 第9番」を超える作品を生み出す余地を、絶対音楽に見いだせなかったのかもしれません。何かしらの転換として標題音楽に取り組んだとも考えられそうです。
ドヴォルザークの交響詩を初演したヤナーチェクは自身が打ち立てた「発話旋律(ナペフスキー)」との共通点を見いだし、「ドヴォルザークの作品の中で最もチェコ的なもの」(156ページ抜粋)と評しています。
ドヴォルザークの心境を、楽曲の中から読み取ってみたいですね。
交響詩「英雄の歌」にも言及しているみたいですね。
マーラーが大変気に入っていたようだな。ウィーンで指揮したことが記載されているぞ。(158、159ページ)
【雑想】下手の横好き。(第119弾)
クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。
DAW(Digital Audio Workstation)でクラシック音楽を打ち込んだDTM(DeskTop Music)の作品を制作しています。
DAWで音楽を制作するDTMの楽しさが伝わればと思います。
下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。
・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)
クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。
長く続く趣味を持ちたいです。
今回もドヴォルザーク編でした。
交響曲作家のイメージが強いドヴォルザークですが、交響詩も大変魅力的な作品でした。
ドヴォルザークが生み出すバラエティが豊かなフレーズは、物語性のある音楽にマッチしていると感じました。
晩年に純器楽を離れ、題材に基づいた標題音楽に取り組んだドヴォルザークの心境を、少しでも知れたような気持ちになります。
次回は変則回です。
では、また。
ドヴォルザークの交響詩も、魅惑的な旋律に溢れていて楽しかったです。
テクストの選択が良かったという点も重要だな。ドヴォルザークのファンタジーとイマジネーションにマッチしていたと考えられるな。