こんにちは。はーねうすです。

今回は、「スクリャービン ピアノ・ソナタ全集」を紹介します。

作品の9割近くがピアノ曲のスクリャービンにとって、ピアノ・ソナタは自身の音楽世界を切り開いた作品群と言えるでしょう。

古典やロマン主義、印象主義に倣い、そして神秘和音という独自の音響でソナタを作曲しています。スクリャービンの作曲面での変遷を垣間見られる作品群でもあります。

ピアノ演奏は、ウラディーミル・アシュケナージ氏です。

★打ち込みクラシック

DAW(Digital Audio Workstation)で入力したクラシック音楽のDTM(DeskTop Music)作品を紹介するコーナーを巻末に設けています。
今回紹介するアルバムの中から1曲をピックアップしていますので、是非お楽しみください。

スクリャービン編ですね。ピアノ・ソナタの全集のようですね。

初期から後期にかけての変遷や、ターニングポイントを知ることができるぞ。

【着想】トラディショナルからオリジナルへの発展。

「スクリャービン ピアノ・ソナタ全集」のコンテンツです。

「スクリャービン ピアノ・ソナタ全集」です。
スクリャービン ピアノ・ソナタ全集 レーベル[LONDON]

ショパンやリストと言った先達のピアノ曲に影響を受けた初期の作品から、独自の世界観を構築した中後期の作品まで、一連のピアノソナタは、スクリャービンの変遷を語る上では欠かせない作品群になっています。

CD1

No.曲名(1)曲名(2)作品番号
1ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調第1楽章:アレグロ・コン・フォーコOp.6
2ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調第2楽章:M.M ♩=40Op.6
3ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調第3楽章:プレストOp.6
4ピアノ・ソナタ 第1番 ヘ短調第4楽章:葬送行進曲Op.6
5ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ト短調「幻想ソナタ」第1楽章:アンダンテOp.19
6ピアノ・ソナタ 第2番 嬰ト短調「幻想ソナタ」第2楽章:プレストOp.19
7ピアノ・ソナタ 第3番 嬰ヘ短調第1楽章:ドラマティコOp.23
8ピアノ・ソナタ 第3番 嬰ヘ短調第2楽章:アレグレットOp.23
9ピアノ・ソナタ 第3番 嬰ヘ短調第3楽章:アンダンテOp.23
10ピアノ・ソナタ 第3番 嬰ヘ短調第4楽章:プレスト・コン・フォーコOp.23
11ピアノ・ソナタ 第4番 嬰ヘ長調第1楽章:アンダンテOp.30
12ピアノ・ソナタ 第4番 嬰ヘ長調第2楽章:プレスティシモ・ヴォランテOp.30
13ピアノ・ソナタ 第5番アレグロ・イン・ペトゥオーゾ・コン・ストラヴァガンツァ – プレスト・アレグレッツァOp.53

CD2

No.曲名(1)曲名(2)作品番号
1ピアノ・ソナタ 第6番モデレOp.62
2ピアノ・ソナタ 第7番「白ミサ」アレグロOp.64
3ピアノ・ソナタ 第8番レントOp.66
4ピアノ・ソナタ 第9番「黒ミサ」モデラート・クワジ・アンダンテOp.68
5ピアノ・ソナタ 第10番モデラートOp.70

ちょっとした所感です。

<おすすめ度★★★>

「CD1_No.11」:「ピアノ・ソナタ 第4番 第1楽章」
「CD1_No.12」:「ピアノ・ソナタ 第4番 第2楽章」

印象主義的な音階と和声進行が特徴の楽曲です。第1楽章と第2楽章を切れ目なく演奏するスタイルは、続く第5番以降の単一楽章形式の先駆けとも楽曲です。

第1楽章:
提示される主要主題がひたすらに美しい楽曲です。まるで夢想の中にいるような錯覚に陥る音で支配されています。

第2楽章:
4連符で構成されたリズムと跳躍、モチーフの反復が心地良い楽曲です。重厚な和音の連打に載せた展開される主要主題が感動的です。

「CD1_No.13」:「ピアノ・ソナタ 第5番」

曖昧な調性と変拍子の混合などで構成された楽曲です。続く第6番以降の調性記号を配した作品群に連なる楽曲と言えるでしょう。

印象主義風の静寂な主要主題と、力強く情熱的で熱量の高い副次主題で構成されています。とても複雑でありながら、言い知れない甘美さを持った楽曲です。

冒頭と結尾に配置された装飾的なパッセージも、第6番以降に多用される型を予見させる内容として、とても重要に感じます。

「CD2_No.2」:「ピアノ・ソナタ 第7番」

7度の和音で構築された緊張感のある音響が、作曲家の内省の発露として顕現したような楽曲です。

重みのある和音で構成された情熱的な部位と、5連符の下降型で構成された神秘的な部位で構成されています。

4段の譜面で記載された幾何学的なパッセージなど、どこか異様性を感じさせる内容になっています。

「CD2_No.5」:「ピアノ・ソナタ 第10番」

調性記号が取り払われた他の楽曲と比較して、モチーフの展開が明瞭な楽曲です。

同型の反復や複雑な連符が回避されていることもあり、動機の有機的な展開がつかみやすい内容になっています。

音響面での美しさが際立っている作品で、ピアノの音を昇華させて具現化した神聖な儀式と祝詞のようにも感じます。

<おすすめ度★★>

「CD1_No.7」:「ピアノ・ソナタ 第3番 第1楽章」
「CD2_No.8」:「ピアノ・ソナタ 第3番 第2楽章」
「CD2_No.9」:「ピアノ・ソナタ 第3番 第3楽章」
「CD2_No.10」:「ピアノ・ソナタ 第3番 第4楽章」

有機的に発展されたモチーフが、全編に鏤められた楽曲です。スクリャービンの作曲手法の典型といえる内容になっています。

第1楽章:
勇猛さ可憐さを伴った、旋律線が明快な楽曲です。核となる同型反復のモチーフが骨格のように構成されています。

第2楽章:
威勢に満ちた主要主題と、可愛らしい副次主題で構成されています。

第3楽章:
静謐で、内省的な祈りにも似た楽曲です。第1楽章のモチーフが登場し、切れ目なく最終楽章へ突き進みます。

第4楽章:
劇的に揺れ動く、起伏の激しい情緒を描いたような、ドラマティックでエモーショナルな楽曲です。

「CD2_No.1」:「ピアノ・ソナタ 第6番」

調性記号が取り払われた最初のソナタです。

印象主義的な和音と音階、装飾的な加工や主題の回帰などがあり、また熱情的な展開も用意されていますので、様式や形式といった構成の面が明瞭な楽曲とも言えます。

「CD2_No.3」:「ピアノ・ソナタ 第8番」

静と動が混在し、加えて、多用されるトリルが楽曲に内在する不気味さを演出しています。

3段、4段で組まれた譜面で構成された楽句が、当たり前のように配置されているのも印象的です。

「CD2_No.4」:「ピアノ・ソナタ 第9番」

調性記号を払拭した他同種の楽曲と比して、3連符が主体となって発展するモチーフが活用されているため、主題の輪郭が明瞭です。

高音域でのトリルの多用と、低音域での重苦しい線の動きの組み合わせが印象的です。

<おすすめ度★>

「CD1_No.1」:「ピアノ・ソナタ 第1番 第1楽章」
「CD1_No.2」:「ピアノ・ソナタ 第1番 第2楽章」
「CD1_No.3」:「ピアノ・ソナタ 第1番 第3楽章」
「CD1_No.4」:「ピアノ・ソナタ 第1番 第4楽章」

スクリャービンが手掛けた最初のソナタとして、記念碑的な楽曲になっています。ショパンの影響を随所に伺うことができます。

第1楽章:
抑えがたい情熱を音楽にしたかのような、ドラマティックでロマンティックな楽曲です。激しく突き上げる衝動を表わした第1主題、激情性抒情性を兼ね備えた第2主題、勇壮なコーダで構成されています。昂揚感に溢れた構成が格好良い楽曲です。

第2楽章:
重苦しい和音で構成された、コラールのような楽曲です。所々で第1楽章のコーダの変形が組み込まれています。

第3楽章:
力強く突き進む楽曲です。中間部で第1楽章の第2主題が変形されて登場します。

第4楽章:
深い淵に沈み込んだかのような、陰鬱な曲想の楽曲です。低音部で進展する重苦しく力強い主要主題、和音の同型で進展する祈りのような中間主題で構成されています。静寂に包まれた環境下での黙想といった感のある楽曲です。

「CD1_No.5」:「ピアノ・ソナタ 第2番 第1楽章」
「CD1_No.6」:「ピアノ・ソナタ 第2番 第2楽章」

副題に付されている「幻想」というキーワードの通りに、幻想性自由性を持った楽曲です。

第1楽章:
沈鬱な重苦しさと、静謐な柔らかさが同居した楽曲です。副次主題が極めて美しいです。

第2楽章:
3連符の型で無窮動に駆ける線と、力強い和音の組み合わせが特徴的な楽曲です。前楽章との対比として、威勢のある様が印象的です。

スクリャービンと言えば「神秘和音」に代表される独自の音楽手法や語法といった点が、音楽史の上で注目されます。その独自性を発現するまで、どのような発展や展開といった経路を辿ったのかを知ることができるアルバムと言えるでしょう。

「スクリャービン ピアノ・ソナタ全集」です。
スクリャービン ピアノ・ソナタ全集 レーベル[LONDON]

ロマン主義風や印象主義風といった、聴き馴染みやすい楽曲もありますね。

初期の作品群だな。先達の技術を吸収して、独自の語法を発展させていったのがよく分かるのも、スクリャービンの特長だな。

【観想】独自世界の構築。

魅力と醍醐味について、少しばかりの言及です。

スクリャービンの魅力は、何と言っても独自に開発した音楽語法です。

とりわけ「神秘和音」の発明と運用は、他の作曲家とは一線を画したオリジナリティとして、作曲家の作品を特徴付けています。

第6番の冒頭で提示される10度の和音や、第7番以降に多用される7度の和音には、機能和声を逸した新たな「機能」を伴っています。それは、作曲家が神秘主義的な思想を音楽で表現する上での機能です。

作曲家が神智学や神秘主義思想に傾倒していたから、といった安直で短絡的な理由からではなく、音楽という語法で自身の思想や思念といったものを顕現するに上で欠くことのできない発明だったといえるでしょう。

そして、厳粛浄化恍惚といった神秘で神聖な音楽空間を提示したと言えるでしょう。また、劇薬の摂取にも似た、陶酔に近い感覚を覚える中毒性をも加味されています。

スクリャービンには、音と色彩(光)の融合など前衛的な試みもあるため、20世紀のムーブメントの火付け役といった役割も見逃せません。

ですが、ピアノという楽器に心酔した作曲家の個性は、やはりピアノ曲に多く織り込まれています。

音楽家の略歴です。

アレキサンドル・エコラエヴィチ・スクリャービン
【露】1872-1915
初期はショパン風のピアノ曲を作曲。にちにリスト、ワーグナーの影響により新しい和音の探求に進む。神智学に心酔して、自己の芸術を神秘主義的思想に結びつけ、神秘和音、音と色彩の合一など20世紀音楽で展開される大胆な試みの先駆けをなした。内面世界の自由な表現として、詩曲と名づけた独特のジャンルの創造は注目される。
(「クラシック音楽作品名辞典<改訂版> 三省堂」より抜粋)

ドビュッシーとは一味も二味も違った、音色ですよね。

ドビュッシーの場合は、全音階や五音階、教会旋法など既存の型から前例のない独自性を生み出している。スクリャービンの場合は、既存を伴わない極めて「独自的な開発」に基づく「発明」が理由だろう。

【追想】譜面の大胆な展開。

連符、トリル、混合拍子、多段譜の多用に興奮します。

「スクリアビン ピアノ曲集 第二巻 ソナタ集・上巻」です。
スクリアビン ピアノ曲集 第二巻 ソナタ集・上巻 全音楽譜出版社
「スクリアビン ピアノ曲集 第三巻 ソナタ集・下巻」です。
スクリアビン ピアノ曲集 第三巻 ソナタ集・下巻 全音楽譜出版社

「スクリアビン ピアノ曲集 第二巻 ソナタ集・上巻」(全音楽譜出版社)と「スクリアビン ピアノ曲集 第三巻 ソナタ集・下巻」(全音楽譜出版社)です。

今回紹介したアルバムに収められた楽曲が、すべて掲載されています。

加えて、ブログ管理者が楽譜を「見る」ことに興奮を覚えた切っ掛けにもなった楽譜でもあります。

「上巻」に収められた「第4番」に登場する「4連符」といった偶数の連符、「第5番」で登場する「2/4、5/8、6/8、4/8」などの混合拍子の扱いの多さを目の当たりにして、とても驚嘆しました。CDを聴いただけでは「特殊な揺らぎだな」という程度の認識を、視覚の情報で補完したとも言えます。

そして、「下巻」に収められた「第6番」から「第10番」までの楽曲には、スクリャービンの神秘思想がフルで展開されたような譜面になっています。

音響面では、幅の広い10度の和音や7度の和音の平行移動などが注目されます。所謂神秘和音ですね。

トリルの多用は一貫しています。独特な不気味さとおどろどろしさを演出しています。

そして、多段の譜面です。

3段、4段といったピアノ独奏曲では中々登場しない絵面になっています。

とりわけ「第7番」の終盤辺りで登場する4段譜は、幾何学的なコンテンポラリー・アートを鑑賞しているような気分になります。興奮しますね。

音楽を聴きながら楽譜を追うのも良いですが、純粋に「視覚的な芸術」として譜面を眺めるのも一興です。

なんか、眺めているだけでも楽しく感じてくる譜面ですね。

幾何学的に描かれた線形のアートのようで、とても美しいよな。

【雑想】下手の横好き。(第97弾)

クラシック音楽の打ち込み作品の紹介です。

「Studio One」シリーズで打ち込んだクラシック音楽をお披露目するコーナーです。

今回は、<おすすめ度★★★>として紹介したスクリャービンの「ピアノ・ソナタ 第4番 嬰ヘ長調 第1楽章」です。

作曲家:アレクサンドル・ニコラエヴィチ・スクリャービン 作曲年:1903

他作品を含め、下記リンク先にクラシック音楽の打ち込み作品などを纏めていますので、ご鑑賞いただければ嬉しいです。

・ミュージック(クラシック_01)
・ミュージック(クラシック_02)

クラシック音楽をファミコン(ファミリーコンピューター)の音源風(あくまで「風」)にアレンジした「8bit クラシック」という打ち込み作品も纏めていますので、上記に加えてご鑑賞いただければ幸いです。

・ミュージック(8bit クラシック_01)

長く続く趣味を持ちたいです。

今回から、スクリャービン編に突入しました。

スクリャービンは、敬愛する作曲家のなかでも思い入れが強いです。

とりわけ今回紹介したピアノ・ソナタ群が切っ掛けで、心酔するようになりました。

「独自の語法の開発」といった特異性は勿論、そこに至るまでに展開した多様性に憧憬を抱きました。

そして、楽譜を眺めることに興奮を覚える原因ともなりました。酔狂です。

次回は、スクリャービンの「エチュード」を紹介します。

では、また。

スクリャービン編が始まりましたね。音楽史を語る上でとても重要な作曲家のようです。

十二音技法に代表されるシェーベルクとは異なった形で、20世紀の前衛芸術の発展に寄与したと言えるぞ。